もり監督インタビュー



ヒロイン4人組に引き続き、『ストラトス・フォー』の制作スタッフを率いる司令長官・もりたけし監督にもインタビュー。作品に込めた監督の情熱と魂のメッセージをとくと見よ!

――まず『ストラトス・フォー』に携わることになったキッカケを教えてください。

もり監督 いちばん最初にスタジオファンタジア社長の飯塚さんとお会いしたのが、僕がガイナックスで『おたくのビデオ』っていうのをやってたときで、それ以来絵コンテの仕事はさせていただいてたんですけど、今回監督でやらないかと誘われて。山内さんも以前からの知り合いですし、「じゃあなにやりましょうか」というところで、まず山内さんの方で「飛行機を出したい」と。ほかにも、「こういうキャラ出したい」「こういうメカ出したい」って、要はもうパーツは全部あるんですよ。それで話を考えて欲しいというとこから呼んでいただいたんで。前の作品(ヴァンドレッド)が自分の原作でしたからね。あらゆる事柄に対して100%答えなきゃいけない、自分で決めなきゃいけないという立場だったのが、今回は逆に決めてくれる人がいるので、そういう意味では気分的には楽かなと思って入ってみたら、やっぱり大変でした。(笑)

――最終的に彗星を迎撃するというお話にした理由は?

もり監督 すごいぶっちゃけていいですか? 「飛行機は出したいけどドッグファイトはやりたくない」って(山内氏が)おっしゃりやがったんですよ(笑) 「じゃあどうすんですか?」っていうところで、「じゃあなんかに当てるか」っていうんで、彗星にしようというとても短絡的な(笑)。いやいや、ちゃんと考えましたよ色々、ドラマとして成立するかとか。ただ、おもしろおかしく説明すればそういうことです。

――以前、雑誌のインタビューであらゆるものに『線』を作っていって、それを越えるような話にしたいとおっしゃっていましたが?

もり監督 それはドラマのテーマとしてね。コメットブラスターとメテオスイーパーっていうものを想定した段階で、そこ(成層圏)に境界線を置いてみようかなと。境界線というのは、僕らにとってすごくハッキリしているようで、近寄ってみるととても曖昧なモノじゃないですか。成層圏っていう線があるわけじゃないでしょ? 赤道だって線が描いてあるわけじゃないですし。みんな知っているのに、行ってみるとどこにあるんだかわからないものっていうのが、成層圏や赤道だと思うんですよ。人間の目標とか、越えなきゃいけないラインとか、人生の転換期ってのも同じようなものだと思うし、「ここから折り返し地点です」って言ってくれれば、誰だって苦労しないじゃないですか。「あ、反転すりゃいいんだ」って思いますけど、自分がいま岐路に立っているかどうかすらわからないことが、後で考えてみたら岐路だったってことがあるでしょ。そういうものを描いてみようかなと思ったんで、いろんなところに線を置いていって。その結果、シナリオや構成の段階で大きなテーマになっていきました。

――等身大の女の子を描きたいともおっしゃってましたね。

もり監督 いま世に溢れてるアニメキャラクター像って、自分の方向性ではないんですよ。ワケもわからず尽くされても困るし、耳生えてても困るし(笑)、それをやれって言われるとツライんですよねきっと。たとえば、かわいい女の子を描きたいとか、同じ目線の女の子を描きたいといったときに、結局は商品だから仕方ないとは思うんですけど、願望充足型のキャラクターが多くなるじゃないですか。これまでも「等身大の少女の成長物語」にはイヤになるほど立ち会ってきましたけど(笑)、本当に描いたら違うんじゃないかな、と思ってやってみたらこんなンなっちゃいました。(苦笑)


――ただ、等身大の女の子を描こうとしても、どうしても男性からの視点になってしまうと思うのですが、そのあたりで苦労されたのではありませんか?

もり監督 男女の価値観というのはそんなに大きく変わらないんじゃないかなというのは、前の作品で学んだんで。それと、10代の悩みっていうのは、男女問わず同じようなものってあると思うんですよ。性別的なものは別ですけど、目標であったり自分の存在意義であったり、そのときの正義ってものは共通だと思うんですよね。10代の価値観というのは、性別よりも世代とか、それぞれの思春期に考えることであると思うんで、あんまり悩まなかったですね。僕の中での定義で、思春期というのは人類の種として最後の発情期だと思ってるんで。たとえば「大人なんだから」と言われた瞬間から、後天的な価値観を植え付けられて、どこぞの誰かが作った道徳観念の型にはまって、それをやってりゃ無難ですっていう環境になんとなくおさまっていっちゃうじゃないですか。それに対して抵抗もしなくなるし。でも、10代っていうのは人間の中に野生の本能がまだ十分に生きている瞬間だから、反発すると思うんですよね。その10代の人間たちがどういう衝動を感じるかっていうのは、やっぱ描いてみたら面白いかなと思って。それで今回は、宇宙を目指すとか、要は上を目指すという上昇志向とか向上心とかを絡めて、その子たちの価値判断を描いてみようと。最終的に美風達は地球を救うかもしれませんが、決して地球を救おうと思って救うんじゃないと思うんです。別の理由があってたまたま救っちゃうという事になるんじゃないかなと思ってますけどね。


―――飛行機のコクピットとして考えると、メテオスイーパーのコクピットは非常に面白い形をしていますが、あの形状を考えたのは?

もり監督 山内さんです。ただ、戦闘機とかロケットとか先端がとんがっているモノって男性器の象徴になると思うんですよね。いや、まじめな話。ご神体とかもそうでしょ。それが上を向かうっていうのは、雄の本能をくすぐるわけで、たとえキャラクターが女の子であろうと、そこに男子が燃えるんだと思うんですよね。こないだのロケット話でも、やっぱり男の子が反応してくれるんだなと学びましたね、ストラトスで。逆に自信持ちましたよ、女の子出してりゃいいってもんじゃないんだ、ちゃんとユーザーの人たちは、面白い話や高揚感のあるエピソードを求めているんだなぁと。なもんで、等身大の少女たちっていうか、等身大の若者ですよね、描いてみたいのは。現実的に考えれば子どもだけで世界救えるわけないし、子どもだけで勝手に成長するわけじゃないし、よく子どもに説教されてへこたれる大人が出てくる漫画とかアニメとかありますけど、あり得ないですからね。子どもたちが子どもたちとしての価値観を持ってそれが成熟していくのって、やっぱり周りに大人がいるからであって、良くも悪くも大人たちを見て学んでいくわけですから。キャラクターの数が多いって言われますけど、やっぱり周りの布陣とか考えるとあのくらいになりますよね。


――最近はカッコイイ大人が出てくる作品が少ないですが、ストラトスは上昇志向や大人になることを否定するような作品にはしないようにしようと

もり監督 大人になりたくないって思う若者は、まともに育つのだろうかといったらそうじゃないですよね。親とか先輩とかがいて、「こんな人になりたい」って思うからいろいろ努力するんだろうし、目標としての先駆者というのはいた方がいいと思うし、それが格好良く描けたらいいなと思ってます。話は変わりますが、美風たちが隕石の撃墜に失敗した際、そのことの責任に対して考えるよりも先に友だちとの不和の方を心配するっていう描写をあえてしたんです。それに対して「責任意識が薄い」という反応があったんですが、逆に「現実にはどうなんだ?」って思いましたね。作り事であるアニメの世界の中には、いくらでも理想的な倫理感を置く事は可能です。でも、やはりそれはただの"ご都合"でしかない。(現実に同じ状況になったら)やはり、真っ先に考えるのは自分の身の回りの事なんじゃないかな?って思いますけどね。「ストラトス・フォー」という作品の世界観や価値観が理解される以前の段階で「アニメの世界はかくあるべし」というのがいつの間にか作られちゃってて、その"つくられた"倫理観のお陰で、作品やファンの人たちが囚われてしまっていると感じたときに、「こういうものは自分達が壊していかないと」って思いました。美風たちの言動とかっていうのを、「自分たちがその場に置かれたらどうするんだろう?」と置き換えてもらった瞬間に、より生っぽくなると思うんですよ。そこで初めてこの世界での倫理観が生まれると思うんです。セリフで「地球のためにガンバル」「責任を感じています」と言わせるのは簡単なんですけども、それがいかに薄っぺらいことか。逆に、言葉にせずともそれが必然的に感じられるものにしたいなと思うんで。実際、10代の子どもたちのテリトリーってそんなに広くないでしょ? 世界を渡り歩いている15歳ってほとんどいませんからね。小さいひとつの島とか、家庭や学校っていう単位のテリトリーの中で、悲喜こもごも感じているわけじゃないですか。そんな発想から、リアルさという意味での心情描写を追求してみました。


――下世話な質問ですが、パンチラは当社比100分の1になると聞いていたのですが、その割には多くないですか?

もり監督 現場の勢いってものがありますからね。こないだ偶然描いているところ見付けて「あっ」って言ったらビクっとなってました(笑)。だけどこれは単純に好みの違いなんですよ。僕ね、見えそうで見えない方が好きなんで。

――監督的には「この回は見せ過ぎ」だという回も?

もり監督 僕の方からお願いしたのは意味もなくパンツを見せるのはやめましょうと。あとはシリアスなシーンで堂々と見えっぱなしもやめましょうと。だから逆に、必然的に見えるところは、見えるんだったら描けばいい、そこまでは止めませんって感じです(苦笑)。


――監督がいちばん気に入っているエピソードは?

もり監督 全部面白いですよね(笑)。作るのは決して楽じゃないですが、プロ意識の強いスタッフとあれこれ頭を付き合わせながら作業するのはやっぱり楽しいですよ。でも、自分の立場からいうと、ひとつだけ抜き出して、これが面白いですとはいえないですよね。13話まとめてひとつの『ストラトス・フォー』ですから。すべてが伏線だしすべてが繋がっているし、自分で4本くらいシナリオやってますけども、それはたまたま担当しただけのことなんで。ただ、あえて美風たちに恋愛はかぶせてないってのはありますね。その分"老いらくの恋"が描きたいかなと。それはやっぱり自分のあこがれなのかなぁ。歳とってもこんな素敵な恋がしたいというところがあるんで、そこはちょっと入れてますね。


――監督なりに「視聴者がこう感じてくれたら嬉しいと思うことはありますか?

もり監督 エンターテインメントという意味では、お客さんを楽しませるのが僕らの仕事ですから、『ストラトス・フォー』という30分の中で悲喜こもごも感じてもらって、見たあとに「あぁ面白かった」と感じてもらえれば一番いいですね。その瞬間に現実を忘れてストラトスの世界にハマってもらって。『ヴァンドレッド』のときにも話したんですが、僕らの子どものころはアニメって言葉が無くて、ビデオもないから録画も当然無くて、当時のテレビ漫画を瞳孔開きっぱなしくらいに見ていた訳じゃないですか(笑) それだけ集中して見ていたし、かなりワクワクして見ていましたからね。子どもにとっては絶大な影響力があって、しかもそこにはなにかしら作り手からのメッセージがあったわけですよ。自分は幸か不幸かそれに気付いてしまって、受け取っちゃったがために、この業界に来てしまい、いまこの場に居るんですよね。だから、こんどは僕らがそのメッセージを僕らなりの言葉で発信して、それを受け取った次の世代の人たちが将来的にこの業界でなにかしら作品つくってくれたらなぁと思いますね。以前にどなたかが「この業界は未曾有の危機にある」と言われてましたが、それはとても良くわかりますよ。すごく刹那的だし使い捨てだし、その場限りの作品っていうのが残念ながら多いんで。逆にこの業界の"今"を担っている一人である以上、キチンとした作品を排出する義務があると思っていますし、大ヒットしなくてもいいから、誰かの心に残る物を作りたいなと思います。そういう意味ではプロでありたいし、プロに徹しているつもりですけどね。たぶん100万人にひとり伝わるか伝わらないかでしょうが、ひとりでもそれを受け止めてくれる人が出来たら幸せだなと思います。


――最後に視聴者の方へひとことお願いします。

もり監督 100万分の1の人がいたら連絡ください(笑)


(C)2003 スタジオ・ファンタジア/「ストラトス・フォー」製作委員会