夜が明ける時
天体危機管理機構、下地島超高高度迎撃基地。この基地の管制塔が、私の職場だ。
時刻は午前5時半。昼間なら青い空とサンゴ礁の広がる海が見える窓の向こうには、夜明け前の暗い空が広がっている。
間も無く、迎撃作戦が開始される。
「ピー!」
警告音とともに、ディスプレイに今回のターゲットである隕石、ジュリエット79−17の表示が現れた。
「ターゲット、警戒エリアに侵入しました。作戦開始時刻です」
沙也華さん、如月副司令に報告する。
「司令!命令をお願いします」
沙也華さんの要請を受けて、レイノルズ基地司令の力強い声が管制室内に響く。
「これより迎撃を開始する。下地島迎撃隊、発進」
「了解しました。サシバ11、サシバ22、発進!」
発進命令が下された。パイロットに指示を伝える。
"SASHIBA11, SASHIBA22 , Shimoji Tower , Cleared for launch . Good Luck !"
"Roger , SASHIBA11, Cleared for launch ."
"Roger , SASHIBA22 , Cleared to launch ."
すぐに二つの返事が返ってきた。2機のTSR−UMS超高高度迎撃機は、既に発進準備を完了している。
"SASHIBA11, Blast off !"
"SASHIBA22, Blast off !"
白銀の機体が、まばゆく輝くオレンジ色の尾を引いて轟音とともに上昇していく。
何度見ても美しい光景だ。
1番機サシバ11のクルーは中村彩雲、土井静羽。
2番機サシバ22には本庄美風、菊原香鈴。
ウチの基地では知らない者は居ない、ジャジャ馬四人娘だ。
あの四人は、私にとって悩みの種になっている。他の基地職員にとっても同じなのだけど。
私は管制官になってからまだ日が浅い。この基地に着任し、仕事をこなしてコツをつかみ、ある程度自信をつけた頃に出会ったのが彼女達だった。
彼女達は、最初は他の訓練生同様、教官の指示にちゃんと従っていた。彼女達が初めて自分で訓練機を飛ばした時には、無線を通じて彼女達の緊張感が伝わって来たものだ。
しかし。この基地に馴染み、空を飛ぶ事に慣れてくると、時々私の管制指示に従わずに飛ぶようになった。
整備主任の佐古さんに教えられた「訓練生の伝統」にのっとって高度記録に挑戦し、燃料不足で基地に帰れなくなった事もある。
もちろん、私の降下指示を無視して。
彼女達は訓練機を使った空中戦ごっこもよくやる。
訓練飛行中にコースや訓練空域を離れて、ドッグファイトを始めてしまうのだ。
こうなると、決着が付くまで私の指示を聞こうとはしない。
これについては、訓練機に「パイロットの操縦技量の向上云々」とかいう理由で模擬空戦シミュレーターなんかが付いているのがいけないのだ。
沙也華さんがこの装備を取り外すようレイノルズ司令に何度も進言しているのだが、いつもはぐらかされてしまうらしい。
管制官の指示は、よっぽどの緊急事態でもない限り厳守しなければならない。
本来なら彼女達はとっくに懲戒免職になっていてもおかしくないのだが、沙也華さんの命令でランウェイを走らされる以外、これといった罰は与えられていない。
「前途ある若者の未来を、簡単に奪うようなことがあってはならない」という司令のポリシーによって。
それには私も賛成だが、司令は彼女達に甘すぎるように思う。
あの四人は、とてもいい子達だ。互いに仲間の事を想いあっている。
本庄さんたちが行方不明になった菊原さんを宇宙まで助けに行ったときには、あの子達のことを、素直に凄いと思った。
彼女達が佐古さんとともに始めたストラトス・ゼロのレストアには、他の訓練生のみならず、教官を含めた基地のほとんどの職員が協力した。
どうしても手に入らない部品は司令が調達したらしい。レストアが完了し、彼女達が乗ったストラトス・ゼロ改めストラトス・フォーの宇宙へのフライトを管制したのは私だった。
彼女達を宇宙へ送り出すとき、不安はあったが、すごく嬉しくもあった。私は、あの子達のことが好きなのだろう。
だからこそ、彼女達が時々管制指示に従ってくれないことが悲しい。
沙也華さんは「あのバカどもが悪いのよ!あなたは気にする事ないわ」と言ってくれるけど、やっぱり私の力不足もあるんじゃないかと思う。
一度、思い切り叱りつけてみようか。沙也華さんに散々怒鳴られても懲りないあの子達に私なんかの説教が通じるとも思えないけど、少しは効果があるかもしれない。
うん。今度試してみよう。
"Shimoji Control , SASHIBA11, Passing 4000 . Booster separation ."
"Shimoji Control , SASHIBA22, Passing 4000 . Booster separation ."
2機が離陸用のロケットブースターを切り離した。迎撃コースへ向けて、誘導を開始する。
"SASHIBA11, SASHIBA22, Shimoji Control , turn left heading 210,
continue climbing to 40000 ."
"Roger , SASHIBA11, left 210, climbing to 40000 ."
"Roger , SASHIBA22."
方位210、高度4万フィートへの上昇を指示。4万フィートに達したら、再びコースを変更して第3エンジンに点火だ。
2機の位置が、ターゲットの落下予測コースに近づいていく。
"Shimoji Control , SASHIBA11, now reaching 40000 ."
"Shimoji Control , SASHIBA22, now reaching 40000 ."
2機の高度が4万フィートに達した。
"SASHIBA11, SASHIBA22, turn left heading 250, ignition number 3 ."
"Roger , SASHIBA11, left 250, ignition number 3 ."
"Roger , SASHIBA22 ."
再びコースを変更した2機が、ターゲットの進路にほぼ正対する。
第3エンジンを点火したTSR−Uは、加速しつつぐんぐん高度を上げていく。
大襲来が明けて以来、大規模な彗星は地球に接近していない。
しかし小規模な隕石や彗星片の落下は続いており、下地島を含めて、各地のメテオスイーパー基地が迎撃に当たっている。
今回のターゲットであるジュリエット79−17は、一昨年コメットブラスターによって迎撃された彗星ジュリエット79の破片だ。
ジュリエット79の破片群は地上に落下せず軌道上に残っていたのだが、1ヶ月前に軌道を離れて高度を下げ始めた。
シミュレーションの結果、2つの破片ジュリエット79−11と同17が下地島基地の迎撃エリア内に落下することが判明し、防空司令部から迎撃作戦の立案と実行が下命されたのだ。
先に落下してきたジュリエット79−11は、昨日の午前2時頃に岩崎和馬・藤谷圭ペア、宮沢翼・池田空ペアが迎撃に成功。
そして今日のジュリエット79−17迎撃だ。ほとんどの職員は、この2日間基地にカンヅメになっている。
サシバ11、サシバ22が迎撃コースに乗った。迎撃高度まで上昇するよう指示を出す。
"SASHIBA11, SASHIBA22, on course . Continue climbing to 140000 ."
"Roger , SASHIBA11, climbing to 140000 ."
"Roger , SASHIBA22 ."
高度14万フィート。
地上からはるか42キロ彼方へ向かって、TSR−Uは高度を上げていく。
"Shimoji Control , SASHIBA11, passing 110000 , radar contact ."
"Shimoji Control , SASHIBA22, passing 110000 , radar contact ."
2機がターゲットをレーダーで捕捉したことを伝えてきた。
「司令、攻撃許可を要請します」
「よろしい。攻撃を許可する」
「了解しました。サシバ11、サシバ22、攻撃を許可します」
沙也華さんの指示を2機に伝える。
"SASHIBA11,SASHIBA22, clear fire ."
"Roger , SASHIBA11."
"Roger , SASHIBA22."
発射高度まで、あと30秒。
"SASHIBA11, target in sight , seeker open ."
"SASHIBA22, target in sight , seeker open ."
2機がターゲットを目視で捉え、ミサイルを起動させた。
"SASHIBA11, Rock on !"
"SASHIBA22, Rock on !"
発射準備は整った。声に出してカウントを行う。
「ミサイル発射まで、あと十秒。8、7、6、・・・」
管制室内の空気が張り詰めていく。
「・・・3、2、1、発射!」
"Fox One , SASHIBA11!"
"Fox One , SASHIBA22!"
レーダースコープ上のサシバ11、サシバ22から放たれた小さなブリップが、ターゲットのブリップへと向かっていく。トライデント・ミサイルだ。
"SASHIBA11, break ."
"SASHIBA22, break ."
2機が反転、離脱した。
コンソール上のミサイル起爆スイッチに手を伸ばし、安全カバーを跳ね上げてスイッチに指をかける。
もしもミサイルがターゲットを外した時には、ミサイルが地上に落下するのを防ぐ為に上空で自爆させなければならない。
室内の緊張は、頂点に達している。
「命中まであと5、4、3、2、1・・・・命中しました!」
ジュリエット79−17と2発のトライデント・ミサイル、3つのブリップが一つに重なり、点滅したのちにスコープ上から消え去った。
"SASHIBA11, Hit!"
"SASHIBA22, Hit!"
2機も命中を伝えてきた。迎撃は成功したようだ。
「ターゲットの消滅を確認しました。迎撃成功です」
管制室内に、安堵のため息が広がった。
「作戦を終了します。サシバ11、サシバ22を帰投させて」
沙也華さんの声も、どこか弾んでいる。
"Target splash . SASHIBA11, SASHIBA22, complete mission , RTB ."
"Roger , SASHIBA11. Complete mission , RTB ."
"Roger , SASHIBA22. Complete mission , RTB ."
2機が帰投のための降下を開始した。ヘッドセットを通じて、4人の会話が聞こえてくる。
「さーて、終わった終わったー。これでスコアは美風に追いついたわね!」
「なに言ってんの、そんなのすぐに抜き返してあげるんだから。ねー、香鈴」
「ん・・・」
「こーら、私語はダメだって!」
相変わらずだ。正直、あの子達のこんな他愛も無い会話を聞いているとほっとする。
でも私には、まだ重要な役目がある。
大空に飛び立ったパイロット達を、無事地上まで導く事。これは発進や迎撃の管制よりも、はるかに重要な事だ。
少なくとも、私はそう思っている。
私のお父さんは、管制官だった。
私と同じ、この下地島の管制塔がお父さんの職場だった。
下地島がまだ基地ではなく、旅客機のパイロット訓練用の飛行場だった頃から。
私が生まれたのは、お父さんが37歳の時。
歳をとってから生まれた子だった上に一人っ子だったので、私はすごく可愛がられた。
お母さんから見ても、かなりの親バカぶりだったらしい。
小さい時には、よく管制塔に連れて行ってもらった。
その頃には下地島は既に迎撃基地兼訓練施設として稼動していて、管制塔からは青空を飛ぶ訓練機が見えた。
私はお父さんに聞いた事がある。
「どうしてパイロットじゃなくて、管制官になったの?」と。
答えははっきりとは覚えていないけれど、こう言われたことだけは記憶に残っている。
『管制官のほうが、かっこいいと思ったからだよ』
私が物心ついた頃、お父さんにこんな話をされた。
『旅客機のパイロットはお客さんを守り、コメットブラスターやメテオスイーパーは地上にいる人を守る。
管制官の仕事は、そんなパイロットたちが安全に飛べるようにすること。そして大空に飛び立ったパイロット を、再び地上へ、無事に迎え入れることなんだ』
"Shimoji Tower , SASHIBA11, passing 10000, descend to 7000, information Foxtrot ."
"Shimoji Tower , SASHIBA22, passing 10000, descend to 7000, information Foxtrot ."
2機が降下してきた。着陸に向けて、誘導を開始する。
"SASHIBA11, SASHIBA22 , Shimoji Tower ,
turn left heading 040, descend and maintain 6000 ."
"Roger , SASHIBA11, left 040, descend 6000 ."
"Roger , SASHIBA22 ."
着陸は、パイロットにとっても管制官にとっても最も難しい作業だ。
2機が帰ってくるのは、空が明るくなっている頃になる。
私が中学生の時、お父さんは入院した。
詳しい事は聞かされなかったけど、2週間ほどで退院したので、ちょっと疲れが出たんだろうな、ぐらいにしか考えていなかった。
それから一年後だった。お父さんが倒れたのは。
肝硬変から肝臓がんになり、持ってあと半年と言われた。
時々体の調子を崩していたので心配はしてたけど、そんなにひどい病気にかかっているなんて思いもしなかった。
病院でちゃんと治療を受ければ少しは長く生きられるかもしれないと言われたけど、お父さんはそれを断り、体の動く限り仕事を続けられるようにレイノルズ司令に頼み込んだ。
司令はそれを許可した。仕事の合間にできる限りの治療を受ける、という条件で。
お父さんは下地島が好きだった。基地のみんなの事が、そして管制官の仕事が好きだった。
だからできる限り仕事を続けたかったのだろう。
でも私は、仕事なんかやめて、ちゃんと治療を受けてほしかった。
お父さんに、少しでも長く生きていてほしかった。
お父さんは、本当に自分で動けなくなるまで仕事を続け、その後、家で息を引き取った。
最期にお父さんは、私にこう言った。
『ずっと一緒にいてやれなくて、ごめんな・・・』
私は丸一晩泣き明かした。そしてその後、お父さんの言葉に怒りを覚えた。
あんな事を言うのなら、ちゃんと治療を受けてくれればよかったのに。
その時私には、お父さんがそこまで仕事を大事にした理由が解らなかった。
お父さんのお葬式には、たくさんの人が来てくれた。
お葬式が終わってからも、うちには多くの人がやって来た。
下地島が空港だった頃のお父さんの同僚や、その頃訓練を受けた旅客機のパイロット。
お父さんの管制で飛んで一人前になったというメテオスイーパーや、コメットブラスターのパイロット。
お父さんの遺影に向かって、ある人は「昔はご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」と言い、ある人は一言「お世話になりました」と言って帰っていった。
私には、最後の最後まで仕事を続けたお父さんの気持ちが、少しだけ解った気がした。
お父さんは、管制官という仕事が本当に好きだったのだろう。
そして、私は決めた。管制官になる。下地島基地の管制官に。
別にお父さんの後を継ごうとか、そういうことじゃない。
ただ純粋に、私も管制官になりたいと思ったのだ。
"SASHIBA11, field in sight ."
"SASHIBA22, field in sight ."
2機が基地に近付いてきた。コースを変更させ、高度を下げさせる。
"SASHIBA11, SASHIBA22, turn left heading 010, descent and maintain 4000 ."
"Roger , SASHIBA11, left 010, descend 4000 ."
"Roger , SASHIBA22 ."
間も無く最終誘導だ。
沙也華さんは双眼鏡を掴み、2機の識別灯を目で追っている。
空は、だいぶ明るくなってきた。
下地島基地の管制官になるとは決めたものの、私にはどうすれば管制官になれるのか解らなかった。
とりあえずは自分で方法を調べてみたけれど、それとは別に、いろんな人に相談した。
最初に話をしたのは、レイノルズ司令だった。
司令は私が小さい頃からの知り合いで、私の中ではおじいさんのような存在だった。
私の話を聞いた司令は、こう切り出した。
「それが君自身で決めた事なら、私に口出しする権利は無い。
しかし、管制官は大変な仕事だ。パイロットとのやりとりを通じて、たくさんの人の命を預かる事になるんだ からね。
そのプレッシャーに、打ち勝つ自信はあるかい?」
私は少しためらったけど、しっかりと答えた。
「はい」と。
「よろしい。それなら私は、出来得る限りの手助けをしよう。
レディーを助けるのは、英国紳士の勤めだからね。
ただし、最終的に管制官になれるかどうかは、君自身の頑張り次第だよ」
司令は笑ってそう言った。
その後司令は、下地島基地の管制官の役割や天体危機管理機構の管制官採用プロセスなど、様々な事を教えてくれた。
司令がおじいさんなら、広陳のリンさんは、私にはおばあちゃんのような存在だ。
リンさんに下地島基地の管制官になりたいと言うと、あんなところで働こうなんて進められたもんじゃないね、と言われてしまった。
「でも」
リンさんは続けた。
「あたしゃ夢を追いかける人間が好きだからね。それがあんたの夢だっていうんなら応援するよ。
後悔する事がないようにがんばりなさい」
本当にうれしかった。ランちゃんも、がんばってね、と言ってくれた。
そのころ下地島でメテオスイーパーのパイロットをしていた沙也華さんは、私の勉強を見てくれた。忙しい仕事の合間を縫って。
お母さんは最初私が管制官になりたいというのをあまりよく思っていなかったみたいだけど、私が本気らしいとわかると、こう言ってくれた。
「お父さんみたいに、無理はしないようにね」
その後私は無事、採用試験に合格する事が出来た。
私が島を立つ時には、たくさんの知り合いが見送りに来てくれた。
必ずここに戻ってくる。そう決意して、私は島を離れた。
着陸が迫る。
"SASHIBA11, SASHIBA22, turn left heading 000, descend and maintain 1500 ."
"SASHIBA11, left 000, descend 1500 ."
"SASHIBA22, left 000, descend 1500 ."
管制官の仕事は、パイロットを地上へ、再び無事に迎え入れること。
お父さんの言葉を思い出す。
2機の距離は、基地から5マイルにまで迫った。
"SASHIBA11, SASHIBA22, turn left heading 349 ."
"SASHIBA11, left 349 ."
"SASHIBA22, left 349 ."
2機が最終着陸コースに進入した。滑走路は問題なし。着陸を許可する。
"SASHIBA11, SASHIBA22, clear to land , Runway 35, wind 210 at 6 ."
"Clear to land , SASHIBA11."
"Clear to land , SASHIBA22."
「脚はちゃんと出てるわ。コースも問題なし」
沙也華さんが見守る中、2機は降下を開始した。
島を離れてから3年後。私はここに戻ってきた。
下地島に配属されるかどうかは解らなかったのだけど、私の配属願いはあっさり受理されたのだ。
私は今、たくさんの人のおかげでここにいる。
管制官になるという望みは叶った。
日々の仕事をこなし、訓練生達が一人前のパイロットになる手助けをすること。
それが今の私の生き甲斐だ。
轟音を響かせて、2機のTSR−Uがタッチダウンした。
この仕事をしていて一番安心するのは、ターゲットが破壊された時ではなく、自分の管制で飛んでいる機が無事に着陸した時だ。
"SASHIBA11, SASHIBA22, turn right Tango-4. おかえりなさい"
2機を誘導路へ向かわせる。
水平線から太陽が顔を出し、ランウェイをタキシングする純白の機体を、オレンジ色に輝かせている。
今回も無事、パイロットを地上へ再び迎え入れることが出来た。
今頃格納庫の前では、佐古さん以下グランドクルー達が、TSR−Uに撃墜マークを描き加えるべく待ち受けているはずだ。
私の肩に手が置かれた。沙也華さんだ。
「なんとか無事に終わったわね」
沙也華さんの微笑みに、私も笑顔を返す。
「みんな、ごくろう。当直が明けるまで、もう少しがんばってくれ。それから明日の夜には、必ず広陳に来るように」
司令から皆への、ねぎらいの言葉だ。
明日の夜には、広陳で迎撃成功時恒例の飲み会が開かれることになっている。
この飲み会、司令とリンさんのおごりで飲み放題なので、みんな楽しみにしているのだ。
ちょっと恥ずかしいけど、私も。
私はこう見えて、かなりお酒に強い。沙也華さんと飲み比べをして、負けた事がないのだ。
もっとも、いつも沙也華さんの方が先に酔っ払って岩崎さんに絡んでいくので、勝負が付かないことのほうが多いんだけれど。
明日は昨日の撃墜分も一緒に祝う事になっているので、いつもより盛り上がるだろう。
でも今の私たちには、とりあえず休息が必要だ。
当直が明けたら、シャワーを浴びて、家に帰って寝よう。
でもその前に、報告書を書かないといけない。家に帰れるのは、お昼頃になるだろうな。
朝の光が、下地島を黄金色に染めていく。
私はこの場所が、この仕事が、そして、この基地にいるみんなの事が大好きだ。
この気持ちは、これから先も変わる事は無いだろう。
|